mumu’s blog

映画で感情を乱しながらエッセイ書いています。

青春だとか失恋だとか

 

爪が綺麗な人が好き。深爪でも、伸びすぎた爪でもなく、指を絡めて相手の指先が手の甲に当たった時に指の腹の感触の先にほんの少し、ほんの少しだけ爪の感覚を見つけられるくらいの。

あと、ささくれはないほうがいい。ささくれは嫌い。

私より賢い人が好き。私が知らないことを知っていてほしい。それを鼻にかけずさらっと優しく話して教えてくれる人にセクシーを感じる。

恥ずかしがらないで嫌がらないで、表情を変えず困っている人に手を差し伸べる人が好き。私もそうなりたい。憧れて、憧れがいつしか恋心になっていく。

 

 

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中学生の時に好きになった男の子の好きなところが今でも人を好きになる基準になっていることに気づいて恥ずかしいのに誇らしい。たった14歳。大人から見たらただの子供の恋だって笑って隅に追い払われてしまうような片想いは、大人の私に繋がって私を今でもドキドキさせる。

 

 

 

 

彼は中学入学のタイミングで引越してきた所謂"新顔"だった。入学式から数日経ってみんなが自分の収まる場所を見つけ始めてもいつも一人でいた。わたしはそういう人が気になって仕方がない。捨てられている子猫は放っておけない。お節介だったかもしれないけど、わたしから話しかけるようにしたら彼は想像以上にユーモアがあって想像以上に優しくて想像以上に賢かった。

 

 

中学生。思春期真っ只中でちょっとやんちゃな男の子は文化祭や体育祭を真剣にやるのはダサいと思ってるみたいだったけど、そりゃそうだ。きっと真剣にやるのが恥ずかしくて、恥ずかしい気持ちを隠して"ダサい"ことから逃げようとしていた。それはそれで子供らしくて可愛いと大人になった今なら微笑ましく思ってあげられる。

そんな"ダサい"ことを嫌がる風もなく、サラッとやってしまうのが彼だった。体育祭で男女ペアになって手を繋いで踊らされても恥ずかしそうにしない。なんなら練習の待機中や休憩中も手を繋いでいてくれる。「今日も暑いね」だとか言われて、上手に答えられなかったのは暑いのが太陽のせいなのか手を繋いでいるせいなのかわたしには分からなかったから。ただ、彼の指がすごく細くて爪が短くもなく長くもなく手の甲に当たる彼の指の腹が心地いいことは分かった。新鮮な感覚だった。

 

 

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3年生になって、初めてクラスが分かれた。

隣の教室から出てくるのを見つけるのが好きだった。話しかけたいわけではなかったけど、彼の姿を同級生たちが揉みくちゃになるように行き交う教室の前の廊下の中で見つけるのが好きだったし、彼の姿だけ額縁に納められたみたいに綺麗に浮いて見えた。

 

まだまだ子供で線の細い華奢な体に覆い被さるように引っ付いたブレザーの制服が、どれだけ愛おしかったか。

 

ダサくて着るのを恥ずかしいとすら思う学校の指定ジャージを着る彼の姿が、どれだけ眩しかったか。

 

面倒くさい顔もしないで、わたしに数学を教えてくれるあなたの態度が実はすごく格好良いと思ってた。"女子"と仲良くするなんて恥ずかしいはずの思春期の男の子には珍しいタイプだった。そんなあなたがすごくタイプだったんだと思う。

 

3年生の体育祭で、組みのリーダーになっていっぱいいっぱいだったわたしを気にして体育祭の本番まで帰り道は一緒に帰ってくれたこと。それはわたしに愚痴を言わせるための時間を作ってくれているんだと子供ながら気づいて優しさが熱くて胸の奥が燃えてしまう気がした。

たぶん、この感覚が初恋だった。

 

遠くからでも、人混みの中でも、好きな人のことは一瞬で見つけられる能力がわたしたちには備わっていることを人を好きになってから知りました。それに気づかせてもらえた14歳のわたしはすごく楽しかったし幸運でした。その相手があの人でわたしはすごく幸福でした。

 

 

好きだと気づいてしまえば、恋の駆け引きを知らないわたしは走り出すしかなかった。

理科の授業が終わった瞬間に理科室を飛び出して好きな人の教室を目がかけて走った。

好きな人を見つけるのは得意。好きな人はすぐ見つけられる。飛びつくように彼のそばまで行って手を彼の耳に寄せた。ヒソヒソ話しをされることに気づいた彼が腰を折る。耳が目の前に現れる。「好き」

 

 

 

「それでわたしたちは付き合いました。」なんてことは全くなく、好きって言って半月くらいは目を合わせるのすら恥ずかしくて逃げ回って挨拶もしなかった。逃げ続けるわたしは放課後に呼び出されて振られた。初恋と初失恋。甘酸っぱい。酸っぱすぎる。

「付き合ったら楽しいと思ったし、付き合おうって言おうと思ったけどやっぱり友達として好きだから付き合うのは違う。」ってちゃんと答えてくれた彼をわたしはしばらくずっと好きだった。ずっと考えて答えを出してくれた彼が可愛くて、やっぱり優しくて、恥ずかしくて逃げ回るわたしを気にしながらたまに話しかけに来てくれる彼はずるかった。夢にまで出てきて優しくしてくれるくらいで、あまりにも優しくてとろけたマシュマロみたいだと思った。でも、現実のほうがもっとずっと優しかったから本当にずるいやつだった。

 

 

 

 

 

 

 

成人式の前夜に中学校の同窓会が開かれた。

高校卒業と同時に地元を出ていたわたしの周りには中学生のときほど友達はいなかった。卒業しても定期的に会っていた地元の子達の空気とわたしが醸し出す空気は違っていて馴れ合えなかった。

「可愛くなったね」って声をかけてくれたのは彼で、それがよくある「昔俺の事を好きだった女に声をかける下心丸出しの男」ではなくて、中学生のとき仲良かった子が同窓会で退屈そうにしているから声をかけて笑顔にさせようって気持ちで勇気をだして話しかけてくれているのが分かって懐かしくて一気に中学生のあの頃に戻された。

 

 

「わたしのこと振ったのを後悔してほしい」

「ちょっと後悔してる」

 

 

 

 

 

一度しか経験できない初恋。初めての失恋。

わたしの初恋がこれでよかった。

悲しかったけど、彼がわたしの初めての失恋でよかった。

 

 

 

私たちが失恋して立ち上がれないほど落ち込んでも、また一歩前に進める原動力は「今に見てろ」なんだろう。